策士な御曹司は真摯に愛を乞う
すぐ目の前で両足を揃えてピタリと立ち止まった彼を、私は弾かれたように見上げた。
この一週間ほどで何度も見た、どこか寂し気に切なく揺れる瞳に、ドキッとする。


「俺は納得いかなくて、出会ってからの数ヵ月、カッコ悪いほど全力で、君にアプローチし続けた」

「あ、アプローチって」


戸惑って、彼の言葉を繰り返す。
夏芽さんは男らしい薄い唇をきゅっと噛み、いきなり私の右手を掴み上げた。


「! な、夏芽さ……」

「今はちゃんと、手が届く。……ほら。触って」


私の手を引いて、自分の胸元に導く。
長袖のTシャツの上からでも、引き締まっているのがよくわかる硬い胸板。
昨日の朝、この目で見た綺麗な身体が、否応なく脳裏を過ぎる。


「っ……」


反射的に手を引っ込め、一歩後ずさった。
なのに彼は、『逃がさない』というように、もう片方の腕を私の頭の後ろに回してくる。
そのまま、抗えないほど強い力で引き寄せられ、


「あっ……」


私は、彼の胸に抱きしめられていた。
夏芽さんの鎖骨に頬をぶつけ、息をのむ私の髪に、彼は顔を埋めてくる。


「俺は、君を……手に入れたんだ、美雨」


鼓膜に直接刻むような一言に、私の心臓がドクッと沸き立った。
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