策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「ちゃんと、思い出したい。だから、今の私がどんなに戸惑っても……」

「……戸惑っても?」

「構わず、アプローチ、してください」


言ってしまってから、なんとも上から目線な言い方だったとハッとした。


「……ぶっ」


自覚すると同時に、夏芽さんが私の頭上で吹き出すから、ますます激しい羞恥心に駆られる。


「ご、ごめんなさい! でも私、ちゃんと自分の記憶に追いつきたくて……!」

「思い出さなくていい」


気持ちが昂るまま声に出した私を、彼は短い言葉で遮った。


「っ、え?」


浮上する想いに水を挿された気分で、私は声を詰まらせる。


「君が言ってくれた通り、俺はこの先もずっと全力アプローチを続ける。でも……思い出さなくていい。ここから、改めて俺を好きになって」


またしても寂し気に瞳を揺らして、彼はそう乞う。


「え? な、なんで……」


意味がわからず、私は言い淀んだ。
思い返すまでもない。
夏芽さんは最初から、私が『知る』ことに否定的だった。


『知りたければ、自分で思い出して。他人の言葉に導かれることなく、自分で』


どうして――?
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