策士な御曹司は真摯に愛を乞う
普通なら。
鏑木コンツェルン一族の夏芽さんが、そこまで全力を出して手に入れた『恋人』なら、なにをしてでも取り戻したいと思うものなんじゃ?
私が失った記憶を、『教え込む』のが正解だと思う。
なのに、彼は――。
『君が忘れているのをいいことに、事実を捻じ曲げたことしか教えられない』
そう言われたことを思い出し、胸が嫌な音を立てて抉られたような感覚を覚える。
「……ごめん、美雨」
私の思考回路を見透かしているように、夏芽さんが腕に力を込めた。
再び肌がぴったりと重なる。
そこから体温が流れ込む感覚に、ドキッと胸を弾ませる私の耳元に顔を埋め――。
「君は、俺の恋人ではない」
直接鼓膜を震わせる、固くたどたどしい声。
「……え?」
私は、彼の肩口に額を預けた格好で、無意識に聞き返した。
彼が言う意味が理解できず、そろそろと顔を上げる。
すぐ額の先で、夏芽さんがやっぱり切なげに顔を歪めて微笑んでいた。
「俺と君は、恋人にはなれていなかった」
そういう形に動く薄い唇は、ほんの少し前まで、私の全身を這っていたのに。
「恋人じゃ、ない……?」
だったら、どうして。
記憶を失っても、身体には刻まれるほど、何度も……。
私は、呆然と呟き、固まった。
鏑木コンツェルン一族の夏芽さんが、そこまで全力を出して手に入れた『恋人』なら、なにをしてでも取り戻したいと思うものなんじゃ?
私が失った記憶を、『教え込む』のが正解だと思う。
なのに、彼は――。
『君が忘れているのをいいことに、事実を捻じ曲げたことしか教えられない』
そう言われたことを思い出し、胸が嫌な音を立てて抉られたような感覚を覚える。
「……ごめん、美雨」
私の思考回路を見透かしているように、夏芽さんが腕に力を込めた。
再び肌がぴったりと重なる。
そこから体温が流れ込む感覚に、ドキッと胸を弾ませる私の耳元に顔を埋め――。
「君は、俺の恋人ではない」
直接鼓膜を震わせる、固くたどたどしい声。
「……え?」
私は、彼の肩口に額を預けた格好で、無意識に聞き返した。
彼が言う意味が理解できず、そろそろと顔を上げる。
すぐ額の先で、夏芽さんがやっぱり切なげに顔を歪めて微笑んでいた。
「俺と君は、恋人にはなれていなかった」
そういう形に動く薄い唇は、ほんの少し前まで、私の全身を這っていたのに。
「恋人じゃ、ない……?」
だったら、どうして。
記憶を失っても、身体には刻まれるほど、何度も……。
私は、呆然と呟き、固まった。