策士な御曹司は真摯に愛を乞う
甘い溺愛の中で迷走
夏芽さんの車で出勤するのも、今日で三日目。
私を助手席にエスコートしてくれた彼が、フロントを回って運転席に着くのを待って、


「あの」


思い切って声をかけた。


「ん?」


シートベルトを引っ張って、カチッと音を鳴らして締める彼に、ほんの少し身を乗り出す。


「夏芽さん……今日のお昼は、特にご予定なかったですよね?」

「? ああ」


夏芽さんは特段考える素振りも見せず、軽い調子で答えてくれた。
エンジンの駆動音が響く中、私は膝の上に置いた手提げの紙袋の取っ手を、無意識にぎゅっと握った。


「実はお弁当作ってあるんです。夏芽さんの分も」

「……え?」


車をゆっくり発進させてから、彼がこちらをチラッと見遣る。


「私……夏芽さんに、まだ返事できてなかったかもしれないけど……私が作ったお弁当を一緒に食べながら、休憩時間を過ごしたりは、してましたよね……?」


彼の横顔に、遠慮がちに探ってみる。
駐車場内を徐行運転する夏芽さんは、フロントガラスの方を向いたまま。
ほんの少し逡巡してから、左手をハンドルから離し、顎を撫でた。


「思い出した……わけじゃないのか」

「すみません。私昨日、会社の同期とランチして。その時、誰にも内緒で、一緒にお弁当食べるような『彼』がいたことを聞いて」
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