策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「夏芽さんに憧れてました。その気持ちに嘘はありません。だから、夏芽さんから熱心にアプローチされたら嬉しくて。本当はちゃんとお返事したいのに、迷って言えなかっただけ……だと思うんです」


私は、必死になって言い募った。


「軽はずみなことをしていた自分を擁護して、都合いいこと言ってるみたいに聞こえるかも、って思います。でも……」


スロープを昇り切り、公道に出るところで、夏芽さんが車を停める。


「美雨」


ハンドルから離した右手を伸ばし、私の後頭部に回した。
その手に力を込めて引き寄せ、唇を奪う。
柔らかく唇を食むだけのキスをして、彼の方から離れていく。


「なつ、めさ」

「ありがとう、美雨。そう言ってくれて、嬉しい」


夏芽さんは、私を見つめてはにかんだ。
ちょっと照れくさそうな表情に、私の胸がきゅんと鳴る。


「でも、美雨。迷う理由が俺の家柄にあるのなら、その心配はない」


夏芽さんはまっすぐ前を向いて、車を発進させる。


「っ、え?」


詰まりながら聞き返す私の視線を受け、目元を和らげた。


「俺は、君にプロポーズするために、ずっと準備していた。鏑木本家や一族にも、君を娶ることについて承諾を得ている」

「め、娶る!?」


随分とさらりと言われたけれど、私は仰天して素っ頓狂な声をあげてしまった。
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