策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「え? そんなに驚く?」


彼の方は何故か不思議そうだけど、世間一般常識で、私の反応が正解だという自信がある。


「だ、だって! ま、まだ恋人じゃなかったでしょ? なのに、早すぎ……って、大がかりすぎます!」

「そう。だからちょっと時間がかかった。でも今、問題はすべてクリアしてるし、君を妻に迎える準備も調っている」

「クリアって、でも……」


つい昨日、湊さんから聞いたことを思い出し、私は言葉に詰まった。
夏芽さんは私が言い淀む様を視界の端に映し、「ふうっ」と声に出して息を吐く。


「君が、多香子を気にしてるのはわかってる」


私はドキッとしながら、彼の横顔をまっすぐ見つめた。


「彼女との許嫁関係の白紙撤回にも関わる問題で、確かに親族からは猛反対にあった。根気強く説明して理解を得る必要があったから、誠意をもって、丁寧に時間をかけて対処した」


夏芽さんが、クッと眉根を寄せる。
目を細めているせいで、そこはかとない憂いが漂う。


一言で『根気強く説明して理解を得る』と言っても、相手は世界的大企業グループ、鏑木コンツェルンの一族だ。
親族の猛反対も当然。
夏芽さんは簡潔に説明してくれたけど、彼一人、孤立無援の状態で理解を得るための労力は、相当なものだったはず。
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