策士な御曹司は真摯に愛を乞う
鏑木ホールディングスの本社ビルは、高層ビルが立ち並ぶ、日本有数のオフィス街にある。
その中でも、群を抜いて立派なインテリジェントビルだ。
真下から見上げると、天に突き抜けそうなほど高い。


子会社のうちは、鏑木の他のグループ会社と同じビルに、テナント入居。
この本社とは格が違う。


こんな立派な本社ビルを構える、鏑木ホールディングスの副社長――。
今さらながら、夏芽さんとの色々な格差を突きつけられた気分で、私はちょっと怯んでしまった。
でも、こうやって怖気づくのも今さらだと、自分に言い聞かせる。


家柄の違いも身分差も承知の上で、私は『鏑木夏芽』という一人の男性との恋に飛び込んだ。
夏芽さんが好きだから、『心配ない』と言ってくれる彼を信じて、そばにいればいい。


私は、一度深呼吸してから、エントランスに入った。
土曜日で会社は休みだけど、わりと多くのスーツ姿のサラリーマンが、広いエントランスを行き交っている。


自動のセキュリティゲートがあり、その両脇を制服姿の警備員が固めている。
休日出勤の社員なのか、男性が一人IDを翳して、ゲートの奥に進んでいくのが見えた。
もちろん、私は入れない。


総合受付は、平日なら受付嬢が数人座っているんだろうけど、今は無人だ。
でも、中に入れてもらう必要はない。
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