策士な御曹司は真摯に愛を乞う
私はほんの一瞬躊躇った後、思い切って二人の方に足を向けた。
往来する人に隠れるように、声が聞こえる位置まで近付いてみる。
「いい加減にしてくれ、多香子。そんなことをしても、俺は君との婚約解消を撤回しない」
いつも落ち着き払っている夏芽さんが、苛立ちを憚ることなく声に滲ませている。
私は怯みそうになるけど、多香子さんの方はまったく動じない。
それどころか、肩に置かれた彼の手を、素っ気なく払い除けた。
「それを決めるのはあなたじゃなくて、鏑木の親族たちじゃない?」
強気に口角を上げて、彼に対峙する。
「あなたが親族たちを説き伏せるのに、持ち出した理由……。私たちの結婚の障害がなくなったんだから、報告するのが当然でしょ」
胸を反らして腕組みする彼女の前で、夏芽さんの方がグッと言葉に詰まる。
今までにないくらいの険悪さが漂ってくる。
私は、ドクドクと嫌な音を立てて加速する胸に、無意識に手を置いていた。
夏芽さんが、多香子さんとの許嫁関係を解消するために、持ち出した理由――。
私は彼本人から、私にプロポーズするためだと聞いている。
夏芽さんと多香子さんの結婚の『障害』になったのは、私の存在。
でも、それがなくなったって、どういうこと?
往来する人に隠れるように、声が聞こえる位置まで近付いてみる。
「いい加減にしてくれ、多香子。そんなことをしても、俺は君との婚約解消を撤回しない」
いつも落ち着き払っている夏芽さんが、苛立ちを憚ることなく声に滲ませている。
私は怯みそうになるけど、多香子さんの方はまったく動じない。
それどころか、肩に置かれた彼の手を、素っ気なく払い除けた。
「それを決めるのはあなたじゃなくて、鏑木の親族たちじゃない?」
強気に口角を上げて、彼に対峙する。
「あなたが親族たちを説き伏せるのに、持ち出した理由……。私たちの結婚の障害がなくなったんだから、報告するのが当然でしょ」
胸を反らして腕組みする彼女の前で、夏芽さんの方がグッと言葉に詰まる。
今までにないくらいの険悪さが漂ってくる。
私は、ドクドクと嫌な音を立てて加速する胸に、無意識に手を置いていた。
夏芽さんが、多香子さんとの許嫁関係を解消するために、持ち出した理由――。
私は彼本人から、私にプロポーズするためだと聞いている。
夏芽さんと多香子さんの結婚の『障害』になったのは、私の存在。
でも、それがなくなったって、どういうこと?