策士な御曹司は真摯に愛を乞う
なくなったどころか、私は夏芽さんの恋人になったのに。
多香子さんは、知らないんだろうか。
いや、そんなわけがない。


私が思った通り、彼女は夏芽さんとの結婚を諦めていない。
そんな彼女に、彼が私とのことを言わずにいるわけがない。
それじゃあ、多香子さんはいったいなにを『障害』と言うんだろう?


「その上、彼女、あなたとの記憶も失ってるんでしょ? だったら、そっとしておきなさいよ。あなたは黒沢さんにはっきり拒絶されたのよ」


多香子さんは、小馬鹿にしたような表情で、遠慮なくズケズケと言い放つ。
それを聞いて、私の心臓がひときわ大きく拍動して、鼓動を狂わせた。


「『酷い、大っ嫌い! もう私に近付かないで』。……そう言われたくせに、彼女が覚えてないのをいいことに、だらしなく縋るなんて。最低な男」


――なに?
私の胸は、まるで太鼓みたいにドッドッと打ち鳴っている。


多香子さんが、なにを言っているのかわからない。
でも、夏芽さんは蒼白な顔をして黙っているだけ。
言われっ放しで口を挟もうとしないから、彼女の言うことが間違っていないと判断するしかない。


多香子さんも、それで勢いづいたのか、満足げにほくそ笑む。
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