策士な御曹司は真摯に愛を乞う
そして、やや不機嫌に、ムッと唇を曲げた。


「早く終わったら連絡しろと言っただろ」


やっぱり、怒られた。
もちろん想定内だから、私はひょいと肩を動かした。


「せっかくいい天気だったので、歩きたくなったんです。それに、退院してからというもの、会社の行き帰りもずっと夏芽さんの車なので、運動不足が気になって」

「……まったく」


夏芽さんはほんのわずかに眉間に皺を寄せて、溜め息をついた。
けれどすぐに、困ったように顔を歪めて、私の額をこつんと叩く。
私は、彼に叩かれた額にとっさに手を遣った。


「ここに来るまで、なにもなかったか?」


その質問には、ギクッとする。
多香子さんとばったり会ったりしていないか、探っているのだろう。


「はい。なにも」


私は、笑顔がぎこちなくなる前に、頷いて答えた。


「そうか。なら、いい」


夏芽さんはそう言って、やっと目元を綻ばせてくれた。


「帰ろう。久しぶりに歩いて、疲れたんじゃないか?」


私に手を差し伸べ、ちょっとからかい口調で訊ねてくる。


「久しぶりにって……散歩くらいで疲れてたら、それこそ大変です」


私は苦笑を返し、彼に手を預けた。
すぐに指を絡めて繋がれて、ドキッと胸が弾む。


「さ、美雨。駐車場はこっちなんだ」


夏芽さんは、私の心臓の反応には気付く様子もなく、一歩前に出て私をエスコートしてくれる。
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