策士な御曹司は真摯に愛を乞う
そんな風に眠りに落ちたせいか、私は夢を見た。


どこか、薄暗いバーカウンターのような席に、私は一人で座っている。
私の手には、可愛らしいピンクとオレンジの層を成したカクテルがある。
きっと相当甘いカクテルだろう。


この、夜の濃い雰囲気を、私は知っているような気がする。
いったいどこ?と考えていると、ブランデーグラスを揺らしながら、男性が声をかけてきた。


『こんばんは。黒沢美雨さん……だよね?』


突然名前を呼ばれた私は、ほんのちょっと酔った目を、ぼんやりと上げる。
そして、隣の椅子に腰を下ろした男性を見て、バチッと大きく目を見開いた。


『えっ……!? えっ、鏑木副社長……!?』


自分の素っ頓狂な声が、耳に響く。


『あれ。俺のこと、知っててくれた?』


クスクス笑う声も、優しく目尻を下げる笑顔も、確かに夏芽さんだ。
雲の上の人。
どんなに憧れても、絶対手が届くわけがない。
いや、それ以前に接点なんかどこにもあるわけがない――。


そう思っていた人が、すぐ隣でブランデーグラスを口元に運んでいる。
そんな状況に、私は完全に舞い上がっていた。


『も、もちろん、私の方は存じ上げてます! 知らないわけがありませんっ。で、でもあの。鏑木副社長も、私のこと、知っててくださったんですか!?』
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