策士な御曹司は真摯に愛を乞う
朝食の席で向かい合った夏芽さんは、ちょっと気まずそうに私から目を逸らした。


「昨夜……ごめん」


私に無理をさせたという自覚があるせいか、どこか歯切れ悪い謝罪をする。
それを受けて、私は改まって背筋を伸ばした。


「夏芽さん。私、夢を見るんです」

「え?」


返しが突拍子なかったからか、彼は顎に手を遣りながら私と目を合わせてくれた。


「夢なので、とっても不鮮明で。でも、どうしてだか感覚だけはリアルで」


昨夜見た、夏芽さんと出会った夜の『夢』。
そこにいた、舞い上がった自分を気恥ずかしく思いながら、ぎこちなく笑う。


「私は、初めて一人で入ったバーのカウンターで、ある男性に声をかけられるんです」


こんがり焼けたトーストを手に、バターを塗ろうとしていた彼の手がピクッと震えて止まった。


「彼に名前を呼ばれて、私は驚きました。だってそれは、いつも遠くから眺めていた憧れの人だったから」


目線を横に流し、自分の記憶を辿りながら、首を傾げる。


「あれは夢じゃない。私の潜在意識が見せる記憶。……私と夏芽さんの、出会いですよね?」


まっすぐ彼を見つめて、直球で質問を繰り出す。
夏芽さんは、ふっと目を伏せた。
無言で手を動かし、バターを塗り終えると、


「そう」


溜め息混じりに、頷いてくれる。


「その夜、俺は君を」


上目遣いの視線をこちらに向けて、意味深に言葉を切る。
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