策士な御曹司は真摯に愛を乞う
私は、思わずカッと頬を火照らせてから、無言で一度首を縦に振った。
それを見て、夏芽さんはふっと目尻を下げる。


「それも、夢で見た?」

「そ、それは、昨夜じゃなくてもっと前に」


ボソボソと口に出して言い淀むと、彼が「え?」と聞き返してきた。


「まだ、夏芽さんの恋人になる前のことです。その……どうしてあんなエッチな夢見たのかって、自分では居た堪れなくて……!」

「へえ、そう。そんなエッチな潜在意識、持ってたんだ?」


片手にトーストを持ち、反対側の肘をテーブルに置いて、頬杖をつく。
ニヤニヤして探ってくるから、体温が二度くらい上昇したような気がした。


「~~!」


頭のてっぺんから湯気が出そうなほど、顔を真っ赤に染める私を、彼はクスッと笑う。
意地悪な頬杖を解き、トーストを口に運びながら、


「君は確かに酔ってたけど、好きだと言った俺に応えてくれた。だから俺は、これで君と恋人になれるんだと思っていた」


ひそめた眉に憂いを滲ませ、ポツリと呟く。


「っ」


私は、思わず口ごもる。
そう、そうはならなかったことを、私は彼から聞いて知っている。


「その先は、まだ思い出してない?」


そう問われて、一度だけ頷いて応えた。
夏芽さんは無言でトーストを二口齧り、ゆっくり咀嚼してから、男らしい喉仏を上下させて飲み込んだ。
そして、「ふう」と唇をすぼめて息を吐く。
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