策士な御曹司は真摯に愛を乞う
『結婚しよう、美雨』
『は、い……』
堪らない幸福感に身を委ね、私は彼の腕に両手をかけて、一言、それだけを返した。
再び走る、耳障りなノイズ。
そして、暗転――。
場面は、切り替わっていた。
『婚約者がいるのに、私に結婚しようなんて、どうして言えたんですか!?』
一転して、不穏な空気。
夏芽さんが切羽詰まった顔で、なにか言葉を挟もうとするのを、私は両手で耳を押さえて拒む。
『酷い、大っ嫌い! もう私に近付かないで』
私を宥めようと伸びてくる手を払い除けて叫び、なにかを投げつけて踵を返した。
『美雨っ……!!』
夏芽さんが、弾かれたように床を蹴って走り出す。
私は、それを振り切るように駆けて行って――。
『あっ……!』
エスカレーターを駆け下りる途中で、足を滑らせた。
『美雨っ!!』
とっさに差し伸ばされた手に縋ろうと、腕を伸ばした。
でも、届かない。
どんどん遠退いていく。
耳に聞こえるのは、ガンガンガンというけたたましい衝撃音。
縋る物を見つけられないまま、身体が転がり落ちる。
凍りついた顔をした夏芽さんが、小さくなっていく。
『うっ……』
ようやく落ちる感覚が治まって、私は短く呻いた。
『美雨、美雨っ……!!』
動けない私の傍らで、夏芽さんが張り裂けそうな声で私の名を絶叫している。
全身に鈍い痛みが走る。
それ以上に、腹部に差し込むような痛みが、私の意識を遠退かせていく――。
『は、い……』
堪らない幸福感に身を委ね、私は彼の腕に両手をかけて、一言、それだけを返した。
再び走る、耳障りなノイズ。
そして、暗転――。
場面は、切り替わっていた。
『婚約者がいるのに、私に結婚しようなんて、どうして言えたんですか!?』
一転して、不穏な空気。
夏芽さんが切羽詰まった顔で、なにか言葉を挟もうとするのを、私は両手で耳を押さえて拒む。
『酷い、大っ嫌い! もう私に近付かないで』
私を宥めようと伸びてくる手を払い除けて叫び、なにかを投げつけて踵を返した。
『美雨っ……!!』
夏芽さんが、弾かれたように床を蹴って走り出す。
私は、それを振り切るように駆けて行って――。
『あっ……!』
エスカレーターを駆け下りる途中で、足を滑らせた。
『美雨っ!!』
とっさに差し伸ばされた手に縋ろうと、腕を伸ばした。
でも、届かない。
どんどん遠退いていく。
耳に聞こえるのは、ガンガンガンというけたたましい衝撃音。
縋る物を見つけられないまま、身体が転がり落ちる。
凍りついた顔をした夏芽さんが、小さくなっていく。
『うっ……』
ようやく落ちる感覚が治まって、私は短く呻いた。
『美雨、美雨っ……!!』
動けない私の傍らで、夏芽さんが張り裂けそうな声で私の名を絶叫している。
全身に鈍い痛みが走る。
それ以上に、腹部に差し込むような痛みが、私の意識を遠退かせていく――。