策士な御曹司は真摯に愛を乞う
重い目蓋を持ち上げると、視界に映ったのは見慣れた天井だった。
身体が心地よく沈み込む、夏芽さんのダブルベッド。
ぼんやりした意識下でわかるほど、身体に馴染んでしまった。


「う……」


無意識に、唇から小さな呻き声が漏れる。
すると、すぐ傍らで、ハッとしたような気配がした。


「美雨っ!」


天井から降り注ぐ、眩しい灯りを遮る大きな身体。
私に落ちてくる影。


「あ……」


一瞬、既視感が走った。
だけど、潜在意識が働いて見せる、真っ暗な記憶ではない。
記憶を失った私が、病院で初めて目覚めた時と同じ――。
あの時も、夏芽さんはそばに付き添って、私の覚醒を待ってくれていた。


「なつ、めさん……」


ぼんやりしながら、自分でも確かめるように、彼の名前を口にする。
夏芽さんは声を詰まらせて、身を乗り出してくる。
そして、


「美雨……」

絞り出すような声を漏らして、私をぎゅうっと抱きしめた。
彼の重みに、胸がきゅんと疼く。
私は、広い背中に腕を回しながら、たった今まで見ていた夢――いや、記憶を心に深く繋ぎ留めた。


「ごめんなさい、夏芽さん……」


まだ覚束ない意識の中で、私は彼に謝罪をした。
私を抱く彼の腕が、ビクッと震える。
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