策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「どうして。どうして、君が謝る」
か細い声で、聞き返された。
「私が……身の程知らずに、夏芽さんとの恋に有頂天になったりしたから」
「っ……」
「お弁当の卵焼き。つまみ食いされて。『美味しい』って言われて浮かれて、『夏芽さんの分も作って来ましょうか?』なんて恋人気取り……」
独り言みたいに呟きながら、私の脳裏にはその時の光景が浮かび上がっていた。
夏芽さんと出会って、二ヵ月ほどの頃だ。
私は彼にぶつけられる想いに戸惑いながらも、ゆっくり心を通わせるようになっていた。
『絆される』なんてとんでもない。
『恋人にはなれないままだった』なんて、絶対違う。
私は、自分は夏芽さんには相応しくないと思いながらも、彼に愛される悦びに溺れていた。
ちゃんとちゃんと『恋人』として、夏芽さんと一緒に過ごしていた。
でも――。
「私は、多香子さんを傷つけてたんですね……」
私の首筋に顔を埋めた夏芽さんが、耳元でハッと息をのんだ。
「あの時……多香子さんの存在すら知らずに、困惑するだけだった私に、彼女の方が傷ついた顔をしました」
何故だろう。
今まで全然思い出せなかったのに、今、目を閉じただけであの時の多香子さんが網膜に浮かび上がる。
か細い声で、聞き返された。
「私が……身の程知らずに、夏芽さんとの恋に有頂天になったりしたから」
「っ……」
「お弁当の卵焼き。つまみ食いされて。『美味しい』って言われて浮かれて、『夏芽さんの分も作って来ましょうか?』なんて恋人気取り……」
独り言みたいに呟きながら、私の脳裏にはその時の光景が浮かび上がっていた。
夏芽さんと出会って、二ヵ月ほどの頃だ。
私は彼にぶつけられる想いに戸惑いながらも、ゆっくり心を通わせるようになっていた。
『絆される』なんてとんでもない。
『恋人にはなれないままだった』なんて、絶対違う。
私は、自分は夏芽さんには相応しくないと思いながらも、彼に愛される悦びに溺れていた。
ちゃんとちゃんと『恋人』として、夏芽さんと一緒に過ごしていた。
でも――。
「私は、多香子さんを傷つけてたんですね……」
私の首筋に顔を埋めた夏芽さんが、耳元でハッと息をのんだ。
「あの時……多香子さんの存在すら知らずに、困惑するだけだった私に、彼女の方が傷ついた顔をしました」
何故だろう。
今まで全然思い出せなかったのに、今、目を閉じただけであの時の多香子さんが網膜に浮かび上がる。