策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「それは……美雨のせいじゃない。許嫁がいることを君に話していなかった、俺のせいだ」


夏芽さんが、声を震わせてそう言って、ゆっくり抱擁を解いた。


「どうして……隠してたんですか」


私の質問に、彼がきゅっと唇を噛む。


「『酷い、大っ嫌い! もう私に近付かないで』……。そう言われて、俺が君を騙したと誤解を招いたこと、思い知ってる」


私の上で顔を伏せ、かぶりを振ってから背を起こした。


「前に言ったけど、互いの意思ではなく交わされた勝手な約束……白紙撤回するのはそう難しいことじゃないと、俺は軽んじていた」


ベッドサイドに立ち上がる彼を、私は目で追った。


「まさか……親族から、あんなに激しい反対を受けるなんて。多香子が首を縦に振らないのにも戸惑って、君に話せずにいるうちに……君の妊娠が発覚した」


深い悔恨を滲ませる声に、私の身体の奥の方で、なにかがきゅうっと締めつけられた。
まるで誘導されるように片手をお腹に当て、緩慢な動作でベッドの上に上体を起こす。


「美雨」


夏芽さんがすぐに手を伸ばし、私を支えてくれた。


「それを理由にして、夏芽さんは鏑木の親族たちの反対を押し切ったんですよね?」


彼は身を屈めたまま、やや強張った顔で一度だけ頷く。


「でもっ……」


私は、両手で顔を覆った。
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