策士な御曹司は真摯に愛を乞う
私、どれほど挙動不審だったんだろう……。
羞恥のあまり、頬が火照る。


「すみません……。気が散りますよね……」


首も肩も縮こめて、一回りくらい小さくなって、声を尻すぼみにした。
それには、「いや」とさらりと返される。


「頭の中でなにを考えていたかはわからないけど、黒沢さんが俺を気にしてくれるのは、嬉しい」


鏑木さんは、わずかに私の方に顔を向けて、言葉通り嬉しそうにはにかんだ。


「っ……」


一瞬、気が緩んだ隙を突く微笑みに、私の鼓動は一気に勢いをつけて加速し始めた。


「ど、どうして鏑木さんは、そう……」


弾かれたように顔を背け、彼が視界の隅っこにも入らないように俯く。


「え?」


短く問い返されて、私はグッと言葉をのんだ。


「いえ……。なんでも、ありません」


かぶりを振りながら、自分の呟きを撤回した。


「?」


なにか問いたそうな気配を感じながら、ただひたすら、膝の上に置いた自分の手を見つめ続ける。
口を開いたら、とっくに飽和状態になって溢れ返っているたくさんの『どうして』を、際限なくぶつけてしまいそうだ。


なんとなく身の置き場がなくて、私は助手席側の窓から外に目線を動かした。
車窓を流れていくのは、見覚えのない風景。
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