策士な御曹司は真摯に愛を乞う
ここまでですでに度肝を抜かれ、ポカンとしていた私を、


「黒沢さん、こっち。どうぞ」


鏑木さんが、一つのドアの前で、手招きした。


「あ、はいっ……」


スマートにカードキーで開錠してドアを開け、私を玄関先に誘ってくれる。
ここでもジェントルマンなエスコートにドキドキして、私は変な汗を掻きそうになりながら、玄関に入った。


鏑木さんは私の背中で施錠すると、スリッパを勧めてくれた。
自分は先に廊下に上がり、ズンズン奥に進んでいく。
玄関先とは思えないほど広い廊下を、私は妙に縮こまって、彼の背を追った。
そして、辿り着いた先、視界いっぱいに飛び込んできたのは――。


「……っ」


開放感溢れる、広々としたリビングだった。
壁一面窓ガラスになっていて、エレベーターホールと同じく、東京の街が広がる。
『TOP OF THE WORLD』という言葉が、頭にポッと浮かんだ。


「うわあ……」


無意識に一歩踏み出し、そこで足を止めて、大きく見渡す。
絶対上質で一級品に違いない家具は、ダークブラウンと白を基調に統一されていて、なんとも言えずシックで落ち着いた空間。
リビングの片隅に六畳ほどの和室があるのも、和風モダンでセンスがある。
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