策士な御曹司は真摯に愛を乞う
その逆サイドに、どこかレトロな印象の螺旋階段があるのを見ると、ここはメゾネットルームなのだろう。
リビングを見渡しただけでは、部屋がいくつあるのかわからない。


「素敵な家……」


思わず感嘆の声を漏らしてから、ふと、自分の感覚に違和感を覚える。
鏑木さんは私を置いて革張りのソファに歩いていき、コートとスーツの上着を無造作に放った。
立ち尽くしてキョロキョロする私に気付き、


「黒沢さん。どうかした?」


と、ネクタイを緩めながら首を傾げる。


いけない。
人の家を、不躾に見回してしまっていた。


「い、いえ。すみません、ジロジロと……」


私は慌てて返事をしてから、どこか覚束ない気分で室内に歩を進めた。
初めて来た鏑木さんのマンションに、既視感が過ぎるのはどうしてだろう……?
天井のセンスのいい照明も、採光抜群の窓辺にかかる白いレースカーテンも、何故か見知っている気がしてならない。


『有名人のお宅訪問!』な~んてテレビ番組で、似たような設計の家が紹介されていたとか?
それとも、雑誌とかで見たなにかの写真と、印象が被ってるとか……。


「どうしたの。落ち着かないね」


ソファの前まで進んだ私に、鏑木さんが訊ねてきた。
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