策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「えっと……想像以上に立派な家で。広すぎて、落ち着かないというか……」


取ってつけたような言い訳をして、ぎこちなく笑って誤魔化す。
彼は、ふっと目を細めた。


「一人なら、確かにね。二人なら、広すぎるということもない」


彼は特段表情も変えずにさらっと言うけど、二人どころか十人くらいの大家族でも、十分なほどの広さだ。
私は狭いワンルームマンションで一人暮らしだから、片隅にある畳のスペースだけでも贅沢な気分……。


さすが鏑木コンツェルン一族。
生まれながらに庶民の私とは、感覚そのものが違う。


無意識に頬がひくっと引き攣るのを感じると同時に、彼の言葉が引っかかった。
『二人なら』って……。


「……!」


反射的にギクッとして、思わずサッと辺りに目を走らせた私に、またしても鏑木さんは首を傾げる。


「ん? 今度は、なに?」

「ええと……。もしかして、結婚のご予定があって、ここはご新居なのでは……」


そう口走る私の脳裏に過ぎるのは、やっぱり『多香子』さんだ。


「っ」


ここでも鏑木さんの唇に視線が向いてしまうのを必死に堪え、挙動不審なほど目を泳がせる。


「……黒沢さん?」


さすがに鏑木さんも、訝しそうに呼びかけてくる。
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