策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「あの……今、なんて?」


自分の耳を疑って、反射的にそう訊ねる。


「今日からここで、生活してもらう」


鏑木さんは表情を変えることなく、同じ言葉を繰り返した。


「っ……! ちょっと、待ってください!」


有無を言わせない横暴な言い様に驚き、私は目を剥いて反論した。


「なにか、問題ある?」

「大ありです! だって……ご自分でも仰ったじゃないですか。『俺は独身』と。それなら、ここで一人暮らしってことですよね?」

「ああ。そうだよ」

「そうだよ、じゃなくて……!」


鏑木さんがあまりにも平然としているせいで、一般常識を基準に混乱している私が、一人で慌てふためいてしまう。
私は、一度大きく深呼吸をして自分を落ち着かせてから、回れ右をして彼に向き直った。


「私の解釈が間違っていたら、正してください。鏑木さんが言っているのは、ここで同居するって……そういう意味合いですか?」


自分でもクドいと思うくらい、はっきりと念入りに確認したつもりだった。
なのに、


「その通り」


鏑木さんは、さらっと言って退ける。
もう、私の常識じゃついていけない。


「ど、どうしてそんな必要があるんですかっ」


なにを言っても立て板に水な感が拭えないけど、足掻くように叫んでいた。
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