策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「っ……!」


鏑木さんが、弾かれたように顔を上げた。
彼の強張った表情に、私も一瞬怯む。
だけど……。


「ダメだ」


鏑木さんが、私の肩をぎゅっと掴んだ。


「痛っ……」


指が食い込むほどの強い力に、私は片目を瞑って顔を歪めてしまう。


「ダメだ。多香子には、絶対に会わせられない」


鏑木さんは、苦い口調で繰り返す。
そんな彼を、私は上目遣いに見据えた。


「だったら、鏑木さんが教えてください」


なんとか虚勢を張って言葉を重ねると、鏑木さんは息をのんだ。


「一番詳しく知っているのは、きっと鏑木さんです。だから……」


勢いに任せて口走る私の肩を、グイと引き寄せる。
私に落ちる彼の影が色濃くなった、次の瞬間……。


「!?」


鏑木さんが背を屈め、私の唇を奪った。
唇に強引に重ねられる温もりに、大きく目を見開く。
ひゅっと喉の奥を鳴らし、そのまま息を止めた。


近すぎて輪郭がぼやける鏑木さんの顔が、私の視界を覆い尽くしている。
言いかけた言葉の先はのみ込まれ、代わりに、私と彼の舌が絡まる、くちゅっという淫らな水音が零れた。


「っ……やめてっ……!」


抗いようもなく吸い込まれる……そんな感覚に怯え、私は必死に首を捩じって、彼の唇から逃げた。
無我夢中で両手で厚い胸板を押して、身体の間隔を開く。
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