策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「い、いきなり、なにを……」
無意識に手の甲を唇に当てた私に、
「俺は、嘘しかつけない」
鏑木さんは、苦しげに顔を歪めた。
「っ、え?」
想像もしていなかった返事で、私は言葉に詰まった。
「君が忘れているのをいいことに、事実を捻じ曲げたことしか教えられない。それは、俺にとっても本意じゃない」
「え……」
私から顔を背け、睫毛を伏せる横顔が切なげで、それ以上問うことができない。
「知りたければ、自分で思い出して。他人の言葉に導かれることなく、自分で」
どこか突き放した言い方をして、彼は私にくるっと背を向けた。
「部屋に、案内するよ。着替えはこちらで用意したから、家に戻らなくても済むと思う」
私の反応を待たずに、リビングの奥へと向かっていく。
私は、バクバクと騒ぐ胸元を両腕で抱きしめ、その背を見つめた。
彼が私に背を向けている今なら、反発心を示して逃げ出すことも可能だ。
ところが、私の足は、竦んでしまって動かない。
なんで、突然キスなんて……。
激しく心が乱れていた。
鏑木さんの言動は、乱暴な上に横暴で、親会社の副社長だからって、従う必要性を感じない。
なのに……。
――どうしてそんな、切ない顔をするの。
失った記憶に潜むなにかを知りたがる私が、彼を傷つけている。
そんな気がして、なにも言えなくなった。
無意識に手の甲を唇に当てた私に、
「俺は、嘘しかつけない」
鏑木さんは、苦しげに顔を歪めた。
「っ、え?」
想像もしていなかった返事で、私は言葉に詰まった。
「君が忘れているのをいいことに、事実を捻じ曲げたことしか教えられない。それは、俺にとっても本意じゃない」
「え……」
私から顔を背け、睫毛を伏せる横顔が切なげで、それ以上問うことができない。
「知りたければ、自分で思い出して。他人の言葉に導かれることなく、自分で」
どこか突き放した言い方をして、彼は私にくるっと背を向けた。
「部屋に、案内するよ。着替えはこちらで用意したから、家に戻らなくても済むと思う」
私の反応を待たずに、リビングの奥へと向かっていく。
私は、バクバクと騒ぐ胸元を両腕で抱きしめ、その背を見つめた。
彼が私に背を向けている今なら、反発心を示して逃げ出すことも可能だ。
ところが、私の足は、竦んでしまって動かない。
なんで、突然キスなんて……。
激しく心が乱れていた。
鏑木さんの言動は、乱暴な上に横暴で、親会社の副社長だからって、従う必要性を感じない。
なのに……。
――どうしてそんな、切ない顔をするの。
失った記憶に潜むなにかを知りたがる私が、彼を傷つけている。
そんな気がして、なにも言えなくなった。