策士な御曹司は真摯に愛を乞う
鏑木さんは、リビングの奥の部屋に私を招き入れると、


「普段客間として使うだけだから、殺風景でごめん。足りないものがあれば、遠慮なく言って。すぐに用意する」


それだけ言って、自分はさっさと出ていってしまった。
十畳ほどの広さがある部屋に、一人ポツンと取り残された私は、所在なく辺りを見回す。


部屋の真ん中に、セミダブルベッドが一台鎮座している。
その他には、窓際のリクライニングチェアと、造りつけのクローゼットしかない。
客間というから、招いた友人が眠るための部屋でしかないのだろう。


「足りないものって。そもそも、いったい私、いつまでここで生活するの……?」


ほんの数日? それとも、一ヵ月くらい?
まさか、一年二年ってことはないだろうけど、不便なのは否めない。


私は急に心細くなり、鏑木さんを捜してドアを振り返った。
今、ドアはしっかりと閉ざされている。
そのせいか、『囚われのお姫様』という多香子さんの言葉が、脳裏を過ぎった。
こうなってみると、この状況は当たらずとも遠からず――。
私は肩を落として、重い溜め息を吐いた。


本当に、わけがわからない。
途方に暮れて、ドスッと勢いよくベッドサイドに腰を下ろす。


ほとんどなんの説明もなく、一方的にここで生活しろだなんて。
よからぬ情報とか、有害とか、自分で思い出せとか……。
鏑木さんが、あんな傲慢な物言いをする人なんて、思いもしなかった。
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