策士な御曹司は真摯に愛を乞う
それに……なんでいきなりキスするの!?
鏑木さんこそ、非常識じゃない……!!


心の中で彼を詰りながら、私は無意識に唇に手を遣っていた。
指先で下唇をつついてしまい、そこに落とされた唇の感触が蘇る。
否応なく心臓が跳ね上がってしまい、


「っ!」


顔から火が出る勢いで火照る頬を、慌てて両手で押さえつけた。
火傷しそうなほど熱いから、鏡を見なくても真っ赤に染まっていることは容易に想像できる。


バクバクと騒ぐ胸。
なのに何故かきゅんと疼くのを感じて、自分の反応にうろたえた。


私はベッドにドサッと倒れ込み、うつぶせになって枕に顔を埋めた。
そうして、


「~~っ!」


足をバタバタさせて、声にならない叫びを枕に吸収させる。
ひとしきりジタバタして少し落ち着くと、私は「ふーっ」と深い息を吐いた。


あれは、私が彼にとって都合の悪いことを口走ったから、黙らせるため。
口封じが目的だろう。
でも、それならなにも、あんな濃厚なキスしなくてもよかったはず!!
今度は憤りを胸に、勢いよく起き上がった。


そうよ。総合的観点からしても、私は鏑木さんに断固抗議していいはずだ。
それでも彼が横暴な命令を貫こうというなら、説明を求める権利がある。
まず、私が忘れてしまっていることを、話してもらう。
それを聞いて納得できるようなら、私だっていくらか譲歩できる。
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