策士な御曹司は真摯に愛を乞う
他のみんなは、一瞬にしてざわめき出した。


秘書という業務柄、落ち着いた女性が多い秘書室だけど、みんな共通して『雲の上の人』と憧れている鏑木さんが関わるとなれば、話は別だ。
彼がここに執務室を構えることで、その姿を毎日拝めるという点では、控えめながら黄色い歓声が湧いたけれど、その補佐は私で専属と言われ、悲鳴のような声があがる。


私自身、混乱して戸惑った。
確かに、通常の役員秘書業務に就けない私が、その役目に最適なのは理解できる。
でも、みんなから向けられる、先ほどとは温度感の違うじっとりと羨ましそうな目に、居た堪れない。
かと言って、これが鏑木さん本人の決定……というか命令なのは明白だから、ここで室長に訴え出ても意味がないのもわかる。


散会して、みんなが私を見遣りながら通り過ぎ、いつもの業務に取りかかっていく。
肩身が狭い思いで、身を縮こめていた私に、室長が向き直った。


「さ、君は鏑木副社長の執務室へ行って。社長室の対面の役員応接で執務に当たられるから」

「はい……」


雇われ社員としては、否とも言えない。
私はがっくりうなだれると、みんなの視線を感じながら、役員応接室に移動するために荷物を纏めた。
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