策士な御曹司は真摯に愛を乞う
すっきりと綺麗なラインの顎を傾け、強引に顔を寄せてきて……。


「っ、んっ……!!」


噛みつくように、キスされた。
眦が裂けそうなほど見開いた私の目に、男の人にしては長い彼の睫毛が微かに震える様が、ぼんやりと映り込む。


下唇を強く吸われ、私の背筋にゾクッとなにかが走った。
二本の腕で私を拘束する鏑木さんには、身体の震えが伝わったと思うのに。


彼は尖らせた舌先で私の唇をこじ開け、遠慮なく口内に入り込んできた。
くちゅっといやらしく淫らな水音が、身体の内側から直接鼓膜をくすぐる。


「んっ、んんっ……!」


身体に回された腕も顎を掴む手も、驚くほど力強く、私は逃げることもできない。
ただ、無意味に身を捩って抵抗を示すのがやっとで、結局彼が唇を解放してくれるまで、ほとんどされるがままだった。


鏑木さんが腕の力を緩めたのに気付き、弾かれたように前に踏み出す。
彼から離れると、唇を手の甲で拭い、生理的な涙が滲んだ目で、必死に睨みつけた。


「い、いきなりなに……」

「これが、からかってるように見える?」


弾む呼吸で声が掠れる。
それでもなんとか発した抗議は、淡々とした低い声に遮られた。


「っ、え?」


私は虚を衝かれ、抗議をのみ込んで聞き返していた。
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