策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「業務時間中に、からかってキスするほど暇じゃない」


鏑木さんは不機嫌に目を細め、斜に構えて続ける。


「君に、うがった見方をされたくない。からかってるわけないだろ。弁解しようと、衝動に突き動かされた」


どこか悔しげに顔を歪めて、わずかに瞳を揺らした。


「ついでだから、白状しようか。俺は今、業務中だろうが執務室だろうが構わず、君を押し倒して、キス以上のこともしたい欲情を抑えている」

「っ……!」


いつも紳士的で物腰柔らかい鏑木さんが、見たことがないくらい獰猛な『男』の顔をしている。
私を鋭く射貫く黒い瞳に、激しく狂おしいほどの劣情が滲んでいる気がして、私は両肘を抱えてゾクッと身を震わせた。


「なにを……鏑木さん、なにを言って……」


ドッドッと、怖いくらい強く拍動する心臓。
喉に妙な渇きを覚え、私は声をつっかからせてしまう。


鏑木さんは、目力を緩めない。
私を射竦めたまま、一度きゅっと唇を結び――。


「本気を証明するために、これだけは伝えておくよ。……俺は、ずっと君が好きだった」


男らしい薄い唇がそう動くのを、私はちゃんと見ていたのに、耳に届いた言葉を即座にのみ込めない。


「え……?」


ボーッとして、無意識に聞き返してしまった。
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