策士な御曹司は真摯に愛を乞う
地味に納得していた時、まさに件のデリバリーが到着した。
私は、上品な濃紺のスーツ姿の男性秘書を執務室に通し、自分のデスクに戻った。
起立したまま、鏑木さんの執務机の前に、彼が両足を揃えて立ち止まるのを見守る。


すっきりと短い、清潔なスタイルの黒髪。
前髪はやや右寄りで分けてセットしている。
黒い細身なフレームの眼鏡の向こうに覗く目元は、鏑木さんと違って、つり上がり気味。
鼻筋が通っていて、凛とした涼やかな顔立ち。


真面目でクール、ちょっと近寄りがたいというのが、見た目からの第一印象だった。
そんな男性秘書が、鏑木さんの前できびきびと一礼する。


「おはようございます。こちら、本日朝締め切り分の決裁書類です」


そう言いながら、右手に持っていた黒いブリーフケースを、執務机にデンとのせた。
チェアに背を預けて座っていた鏑木さんの視線が、わずかにそちらに動く。


「至急案件が十五部。他二十五部は、二、三日中にお目通しください」

「ご苦労様」


鏑木さんも男性秘書も、眉一つ動かさずに淡々とやり取りするけど、もっと少ないと思っていた私は、あ然としてしまった。
デリバリーしてもらうのは、全回付書類の二割。
残りの八割は電子申請される。
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