策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「相当な遠縁で、夏芽とは格違いだけどな」


さっきまでの『ザ! 秘書』という印象をいっぺんに覆す、太々しく擦れた調子で続ける。


「こら、湊」


副社長の鏑木さんが、困ったように眉をハの字にする。


「俺と同い年でね。ほとんど一緒に育ったようなもので、二人の時はいつもこう」

「そ、そうなんですか。かぶ……第一秘書の鏑木さん。黒沢と申します。どうぞ、よろしくお願いします」


私が改まって挨拶すると、


「『第一秘書の鏑木さん』ねえ……」


第一秘書の鏑木さんは、呆れた調子で反芻した。


「参考までに。この状況で夏芽を呼ぶ時、なんて呼びかけるの?」

「それは……副社長の鏑木さん、としか……」


もちろん、こう答えるしかない。
でも、自分でも微妙な気がして、私は目線を外して首を傾げた。


「そのうち、黒沢さんの方が混線しそうだな」


第一秘書の鏑木さんが、やや小馬鹿にするような目をして、容赦ないツッコみをしてくる。


「まあ、確かに」


副社長の鏑木さんも、口元に手を遣り、くっくっと声を漏らして笑った。


「で、でも、お二人一緒の時に、お邪魔しなければいいわけで……」


気を取り直して口を挟むと、第一秘書の鏑木さんが、顎を撫でながら、副社長の方に目を向けた。
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