策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「『夏芽』って呼ばせないのか?」

「え?」


副社長が笑みを引っ込め、なにか警戒するようにピクッと眉尻を上げた。


「彼女だろ? お前が一族の反対を強引に説き伏せて、多香子と……」

「湊っ!!」


第一秘書の鏑木さんがやや辛辣に揶揄するのを、鋭い一喝で制する。
その凛として響く声に、私はビクンと肩を震わせた。
制止された第一秘書の鏑木さんも、きゅっと口を結ぶ。


「え、っと……?」


彼が口走った言葉に戸惑い、私は二人を交互に見た。
だけど。


「……出過ぎたことを申しました。申し訳ございません」


第一秘書の鏑木さんは、口調を元に戻して話題を引き取ってしまった。


「いや。俺こそ、ごめん」


副社長は苦い表情を浮かべ、彼から目を逸らす。
二人のやり取りに怯んでいた私は、無意識にグッと胸元を握りしめた。
でも、気まずい空気を払拭するには、話題を収束させなきゃいけない気がして、自分を奮い立たせる。


「あのっ。でしたら、お二人ともファーストネームで呼ばせてください。副社長は夏芽さん。第一秘書さんは湊さん」


思い切って提案すると、二人とも虚を衝かれた様子で、「え?」ときょとんとした目を向けてきた。
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