策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「……よろしく」


夏芽さんはそっぽを向いて、素っ気なく返した。
湊さんは、ドアに向かって姿勢よくスタスタと歩いていく。
一度足を止めて一礼して、執務室から出ていった。


私も頭を下げて見送ってから、そっと夏芽さんに顔を向けた。
いつも余裕で、飄々とした夏芽さんしか知らない私にとって、平静を繕えない彼が新しくて、思わずまじまじと見つめてしまう。
それが、不躾すぎたのか、


「言っとくけど、名前呼ばれるくらいで、照れてるわけじゃない」


夏芽さんは不機嫌に言い捨て、わりと勢いよくドカッとチェアに腰を下ろした。


「あの、夏芽さ……」


もしかして、私の提案がまずかった……?
一瞬ギクッとしたものの、音を立てて手荒にブリーフケースを開ける彼の頬が、どこか赤く染まってるのに気付き、


「……っ」


見てはいけないものを見てしまった。
そんな気分で、反射的に目を逸らす。


私も急いで椅子に座った。
そして、意味もなくバタバタとパソコンのロックを解除する。


「あの、お手伝いできること、なんでも仰ってください」


なんだか胸がドキドキして、意思に反して声が上擦るのを抑えるのが、精いっぱいだった。
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