策士な御曹司は真摯に愛を乞う
私の終業時間は、午後六時。
退院後初日、私は想像以上に疲れていた。
一週間の入院で体力が落ち、通常の生活に戻れるまでに、回復していないのもある。
でも、疲労の大半は、予想を超える出来事が重なったところにあった。


だから、今日は定時で上がって、まっすぐ帰りたいと思っていた。
でも、行き帰りは送迎すると、夏芽さんに宣言されている。


今日一日だけで、尋常じゃない業量をこなす姿を目にしてしまったら、『疲れたから帰りたい』なんて、とても言えない。
もう少し片付くまで。
私も一緒に残って手伝おう……と、残業を覚悟した。


ところが。
夏芽さんは、時計が午後六時を指すと、率先してパソコンをシャットダウンした。
その気配に目線を上げた私を、「さあ、帰ろう」と促す。


「も、もうですか?」

「もう、って。終業時間だよ」


私がひっくり返った声で聞き返すと、むしろ不思議そうに首を傾げる。


「でも……」


私は自分のパソコンモニターを見遣った。
午前中、湊さんが届けてくれた至急の決裁書は処理済みだけど、電子申請された書類の三分の一は、まだ手付かずだ。
明日に持ち越したところで、また今日と同じペースで積み増しされたら、大変なことになる。
だから、「あの」と改まって背筋を伸ばした。
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