契約結婚!一発逆転マニュアル♡
……最近何だか視線を感じるのは気のせいだろうか。

依舞稀は何とも言えない違和感に戸惑っていた。

仕事も私生活も順調そのもので、何の不自由なく本当に充実している。

あまりにも順調すぎて、幸せが素直に受け入れられていないのだろうか。

そう思ってしまうほどに一抹の不安が拭えない。

ホテルのロビーで、駐車場で、自宅マンションの前で。

外で誰かに見張られているような、そんな気がしてならないのだ。

一度遥翔に相談しようとも思ったのだが、何を見たわけでもなく、ただの思い過ごしかもしれない。

せっかく全ての問題が解決し、これから愛妻家の道まっしぐらだというのに、余計な心配は掛けさせたくない。

そんな気持ちから、結局相談もせずに過ごしている。

しかしそうは言ったものの、依舞稀の感覚が気のせいではなく、何らかの理由があって見張られたりでもしていれば、身の回りの人達に迷惑をかけることになるかも知れない。

それに万が一、遥翔を探る人間の仕業であった場合、自分の存在が弱点になることも考えておかなくてはならない。

知識も強要もない一般社員が副社長夫人になってしまったのだ。

このことで遥翔の足を掬わされるわけにはいかない。

依舞稀は外で遥翔と必要以上にベタベタすることを極力避けるようになった。

程よい距離感を必死に保つことで、家に帰るとその反動が一気に出てしまう。

「職場と家でのギャップが堪らないな」

遥翔はそう言って依舞稀を毎日甘やかし、毎晩乱す。

遥翔に愛でられ日々過ごすうちに、警戒していた視線も次第に気にならなくなっていった。

彩葉の手駒が動き出したのは、その矢先のことであった。
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