契約結婚!一発逆転マニュアル♡
「どうしても外せない会合があるんだ」

遥翔からそう聞かされるのは、結婚して初めてのことであった。

「俺としては気が進まないんだが。大手ホテルの会長が、会合で結婚報告をしろってうるさくてな。悪いけどどうしても参加しなければならなくなったんだ」

一部の宿泊施設には組合というものが存在する。

ホテルキリガヤは属していないが、やはりこの世界のボスや御贔屓筋というのはなくならない風習と言えるらしい。

そういえば依舞稀がまだクラブに勤めていた時に一緒に来た人物も、ただものではないオーラを放っていたし、会長と呼ばれていたような気がする。

今後ホテルキリガヤを担っていく遥翔だからこそ、そういう繋がりは大切にしておくことが大切なのだろう。

「それもお仕事のうちでしょ?頑張って格好よく報告しちゃってください」

依舞稀が冗談めかしてそう言うと、遥翔は苦笑いで答えた。

「嫁が愛しすぎて毎日大変だなんて、誰にも言えないな。言えば頭がおかしくなったんじゃないかと心配されそうだ」

「そんなこと言わなくていいです」

依舞稀はピシャリとそう言ったが、内心では喜んでいた。

「会合に出席する人間は皆、俺がホテルキリガヤの副社長として利用価値のある女と打算的に結婚したと思ってるだろう。実際、依舞稀に出会わなければ、俺は結婚もプライベートも、全てホテルのためになるように使おうと思ってたからな」

プライベートに癒しなど求めない。

結婚なんて興味もない。

誰かを愛して振り回されるより、ホテルの粗利を見ている方がよっぽど確かで満たされる。

依舞稀が欲しいと思うまでの遥翔は、それが当たり前だと思っている男だったのだから、周りにそう思われても仕方がない。
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