契約結婚!一発逆転マニュアル♡
電車の揺れが懐かしいと思ってしまうのは、もうすでに遥翔の高級車の助手席になれてしまったからだろうか。

あれだけ緊張していたランボルギーニに緊張感を感じなくなるとは、依舞稀もすっかり遥翔との生活に慣れたせいだろう。

電車の座席の硬さに思わず笑みがこぼれた。

電車は案外早く遥翔のマンションの最寄り駅に依舞稀を運んでくれた。

改札を出ると、夜の闇が依舞稀を包んだ。

それなりに人通りもあり、街灯も自販機もコンビニだってある。

「そこまで過保護になることないじゃない」

遥翔のタクシー発言を笑い、依舞稀は小さく呟いた。

人の流れに沿うように歩き出した依舞稀の足は軽い。

10分ほど歩き、ふと、こんな距離を歩くのも久し振りだと気が付いた。

通勤が車になっただけで、人はこんなに歩かなくなるものなのかと痛感痛感する。

極端に減ってしまった有酸素運動は、どこかで補わなければ体に変化が出てしまうかもしれない。

もともと太りやすい体質の依舞稀は、家でできる有酸素運動を思い出しながら歩を進めた。

暫くすると、周りに殆どひとがいなくなってしまったことに気付いた。

マンションはもう見えてはいるが、ここら一帯は依舞稀が今まで住んでいた場所と違い、富裕層がほとんどの地域だ。

駅から歩いて帰る人などいるはずもない。

今までも夜に歩いて帰宅することなど亜日常だった為、特別な恐怖は何も感じないが、どうして遥翔がタクシーを使えと言っていたかの意味は分かった気がした。

「次からはタクシーにしよ……」

そう思い少し速足でマンションに向かうと、少し先の電信柱の側に人影があるのを見つけた。
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