契約結婚!一発逆転マニュアル♡
コンシェルジュの男性は、何度も後ろを確認しながら依舞稀をエレベーターに乗せた。

震える依舞稀を支えようと手を伸ばしたが、そのまま触れることなく階数ボタンを押す。

「奥様、大丈夫ですか?」

低く優しい声に、依舞稀はハッと顔を上げた。

「ありがとうございました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「いえ。でもよかったです。何事もなくて」

たまたまマンションの外周チェックをしていた矢先、依舞稀の悲鳴が聞こえたのだ。

自分が外に出ていなかったら、この人はどうなっていたか。

そう考えるとコンシェルジュは恐ろしくなった。

「本当に警察への通報はよろしかったのですか?私の方から連絡いたしましょうか?」

今回は何事もなく対処できたが、次にまた同じことが起きた場合、いつでも自分が駆け付けられるとは限らない。

何かしらの被害が及ぶ前に、警察に通報しておいた方がいいのではないか。

そう思ったが、依舞稀は首を横に振った。

「いえ、大丈夫です」

しかし……と言いかけて、コンシェルジュは「そうですか」と口を継ぐんだ。

何か事情があるのかもしれない。

自分が立ち入っていいことではないと判断したからだ。

マンション住人のプライベートには一切かかわらないということは、コンシェルジュとして当然のことだった。

そうはいっても、顔色の悪い依舞稀をこのままにするには気が引ける。

玄関まで送り届けると、「差し出がましいことですが……」と前置きして続けた。
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