契約結婚!一発逆転マニュアル♡
「来たな」

遥翔はデスクの椅子に踏ん反り返ると、自分の傍らに依舞稀を呼んだ。

それを確認すると八神が「どうぞ」と扉に向かって返答する。

「失礼しますよ」

重厚な声と共に姿を現したのは、大柄で蛇のような目つきをした初老の男性であった。

「朝一でこんなところに顔を出すとは珍しいな。何かあったのか?」

白々しく聞いた遥翔の横に立つ依舞稀をジロリと一見して、その男、辰巳専務は無遠慮にずかずかと副社長デスクに歩み寄った。

「何かあったもなにも、八神から聞いてないのですか?」

大袈裟に溜息を吐き、辰巳は八神を失笑した。

八神に対する態度に依舞稀は不快感を持ったが、当の本人は気にも止めずに冷静な表情を崩さない。

これを見る限り、こんなことは日常茶飯であると依舞稀は察した。

なんという横暴な人であろうか。

さすがは彩葉の父親だ。

「専務が息巻いて来なければならないような報告はない。そうだな、八神?」

「はい。そのような問題はございません」

「だそうだ」

「これを見たらそんな悠長なことは言ってられませんよ。取り敢えず人払いをお願いします」

持参したタブレットを遥翔に差し出しながら、辰巳は依舞稀を邪魔者だというかのような視線を向ける。

その視線と物言いに遥翔は不愉快そうに眉を顰め、「それは俺の妻に対して言っているのか?」と低い声で言った。

遥翔の声色が変わったことを瞬時に察したのか、辰巳はぐっと喉を鳴らして怯んだ。
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