契約結婚!一発逆転マニュアル♡
「お言葉ですが……」

遥翔と辰巳の会話に割って入ったのは、もちろん依舞稀である。

「私は今、副社長と話しているんだよ。慎みたまえ」

不快感をあらわにした辰巳は、遥翔の前であるにも関わらず、依舞稀の言葉をピシャリと遮った。

遥翔の眉がピクリと上がり、今にも辰巳を怒鳴りつけてしまいそうなところを、八神は咳払いで制止した。

これからは依舞稀の反撃が始まるはずだ。

それを遥翔に邪魔させるわけにはいかない。

理由はただ一つ。

……面白そうだからである。

かなり不服そうに顔を歪めた遥翔だったが、長い付き合いの八神の表情を読み取れないほど浅い付き合いをしてはいない。

我慢しなければならないことは理解できる。

依舞稀の気持ちと尊厳を守るためには、それが一番必要なことなのだ。

しかし……。

「慎め……?」

そう、その言葉が一番許せない。

「あなたこそ慎んでください」

そう、その言葉が一番言いたかった。

遥翔の言葉をそのまま代弁したのは、あろうことか依舞稀であった。

先程までのおどおどとした態度を打って変わって、凛としそう言って退けた依舞稀の表情は、夜の店で倒れた男を救ったあの時と重なる。

遥翔はこの表情の依舞稀に惹かれたのだ。

「専務はこの社内メールを誰が送ったのか知っていて、ここに来られたのですか?」

『慎め』の反撃に言葉を失っていた辰巳に、依舞稀は感情を押し殺してそう問いかけた。

もう怖気付いたりしない。

遥翔が作ってくれたチャンスを、絶対に逃さない。

依舞稀はそう腹を括り、専務という立場の辰巳に挑もうと決めたのだ。
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