契約結婚!一発逆転マニュアル♡
家で遥翔が淹れてくれるコーヒーとは違う香りに、依舞稀はつい隣に続く壁を眺めてしまった。

今すぐ遥翔の部屋の扉を開けて、遥翔の元に駆け出したい。

そんな気持ちを抑えるかのように、八神がテーブルに置いてくれたコーヒーを啜った。

「今日もお疲れ様でした。大企業の就任パーティーを決められたとか。素晴らしいパーティーになりそうで、依舞稀さんを指名してよかったとお電話頂きましたよ」

「とんでもありません。もともと副社長がご贔屓になさってるおかげですから」

「だからこその事です。生半可なプレゼンでしたら、ご納得いただけなかったでしょう」

「緊張しましたが、お気に召していただけて良かったです。とは言ってもまだ企画段階で、本番までは気が抜けませんけど」

そう言って微笑む依舞稀の顔は、副社長夫人として夫を立てる妻そのものだ。

彼は一体貪欲までに何を求めているのだろうか。

バカバカしい。

しかしこれも遥翔とこのホテルのためだ。

「依舞稀さんの仕事ぶりは勿論のこと、私はずっとあなたを見てきました」

依舞稀に何があったか逐一報告するようにと遥翔に言われていた八神は、一歩間違えればストーカーにさえなりかねないほどに依舞稀を観察していた。

八神の立場上、絶対に声に出して言えることではないが、シビアなところも含めて今まで完璧だと思ってきた男が、ここまで女に溺れることになろうとは盲点であった。

「結婚する前に依舞稀さんの過去を知り、それからずっとあなたのことを見守るのが私の仕事になりました。それは結婚した今でも変わりません」

「……ありがとうございます」

八神の言わんとすることが理解できず、一先ず依舞稀は日頃の感謝を口にした。
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