契約結婚!一発逆転マニュアル♡
役所の駐車場に車を止め、窓口に向かって歩くにつれて、依舞稀の鼓動は大きくなりだした。

今から今までの人生に終止符を打ち、新たな人生の幕が開くのだ。

婚姻届けを提出するということは、依舞稀にとってそれくらい特別なこと。

だからこそ飄々とした顔で歩を進める遥翔が恨めしくもあった。

八神が用意した婚姻届けの承認欄は四人綺麗に埋まっており、遥翔に尋ねると、会長である遥翔の両親と、その弟、そして八神本人だという。

「息子が突然、何の相談もなく結婚するって……。かなり複雑じゃないですかね?」

今までは自分のことばかりだったが、遥翔のご両親の気持ちを考えると居た堪れない。

何勝手な事をしてるんだ、と怒鳴られても仕方ないくらいに勝手な事をしているという自覚はある。

しかしそんな依舞稀の心配は全く必要のないものだった。

「何の問題もない。ちゃんと了承済みだ」

遥翔は昨夜、依舞稀がお風呂に入っているときに父、誠之助に電話をしている。

その時に『明日婚姻届けを提出する』と伝えたのだ。

さすがに名前くらいは教えろと言われたため、顔写真付きの社員名簿を添付して誠之助のPCに送ると、電話越しに機嫌のよさそうな声が聞こえた。

『美人で性格もよさそうなお嬢さんだ。この人ならお前も愛妻家になれるんじゃないか?』

と、親子そろって全く同じ思考であったことに遥翔は苦笑したのだ。
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