契約結婚!一発逆転マニュアル♡
その話を聞いた依舞稀は驚きと呆れで言葉が出なかった。

跡取り息子の結婚を、こんなに軽く了承する親なんているのだろうか。

ドラマなどでよくあるように、子どもとの思い出に浸りながら、たくさんの葛藤を繰り返し、涙ながらに『おめでとう』というのがセオリーなんじゃないのか。

そうは思ったけれど、それならそんなノリの方が自分の気も楽になるというもの。

婚姻届けを出したら、夜にでもゆっくり電話をしようということになり、依舞稀と遥翔は二人で窓口に向かった。

平日の午前中ということもあり、待ち時間も5分ほどで順番は回ってきた。

依舞稀の理想とはかけ離れた、こんな形での結婚になってはしまった。

それでもやはり女にとって結婚とは特別なことである。

手を引かれるように番号札に記載してある番号が点滅している窓口へと向かう。

遥翔は白い封筒から婚姻届けを取り出すと、依舞稀にすいっと手渡した。

依舞稀は覚悟を決め、たたんであった婚姻届けを広げて右端を掴み、左側を遥翔に差し出した。

「二人で一緒に出しましょう」

ニッコリ笑ってそう言うと、遥翔は左端を掴み、依舞稀の肩を抱き寄せた。

こんな所でなんと大胆な奴だ、と依舞稀は思ったが、婚姻届けを提出するこの窓口では、そんなに珍しいことではないのかもしれない。

「お願いします」

二人の思惑が入り混じった婚姻届けを職員が「確認いたします」と受け取り、事務的なチェックが始まった。

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