契約結婚!一発逆転マニュアル♡
愛妻家が何なのか見えない遥翔にとって、この感情が何なのかは理解できない。

しかし『欲』というものが悪いものではないということは理解できた。

見せたい、知らしめたい、自慢したい、独占したい、愛でたい、他にもたくさんしたいことがある。

それは全てのことが愛妻家へと導いてくれるはず。

この欲が膨らみ、自制できなくなったとき、それが本物に変わる気がしている。

それまではこの感情を抑えるつもりはない。

しかし中には依舞稀が本気で望まぬものもあるだろう。

それを見誤っては、夫婦にとって大きな溝を作ることになってしまう。

これから濃密に深めていかねばならない関係を、判断ミスでダメにはできない。

ここは正式発表を譲歩してくれた依舞稀の気持ちを組んで、自分も一歩引くべきだろう。

遥翔の頭がそう答えをはじき出した。

「わかった。『桐ケ谷』が浸透するまでは『緒方』姓で仕事したらいい」

「いいんですか?」

「依舞稀の仕事がしやすいようにしたらいいよ」

苦笑するように依舞稀に向かって微笑んだ。

「ありがとうございます」

依舞稀も遥翔に向かって微笑んだのだが、その笑顔は止めて欲しいと思った。

ずっとしかめっ面で接されてきたせいで、依舞稀の純粋な笑顔には慣れていない。

二人きりの部屋で思わず襲い掛かりたくなってしまう気持ちを抑えるので精いっぱいだ。

セックスなしなんて条件を、どうして呑んでしまったのか、遥翔は本気で自分を恨んだ。
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