契約結婚!一発逆転マニュアル♡
いくら望んだ事ではなかったにしても、最終的に遥翔との結婚を決めたのは自分自身だ。

決めたからには本物の夫婦になりたいと遥翔だけではなく、依舞稀も当然思っている。

遥翔との結婚生活を始めるうえで、遥翔の両親からいい嫁だと思ってもらいたいと思うのは、決して贅沢なことではない。

順序は違うにしても、きっちりとご挨拶させていただきたかったな……。

依舞稀が俯いて肩を落とすと、遥翔はそっと依舞稀を引き寄せた。

「とはいえ、このままだと依舞稀が歓迎されてないかもしれないって勘違いするだろ?電話でいいから、声聞かせてやってくれない?」

そんな言い方をして誤解されたらどうしてくれるんだと依舞稀は焦ったが、遥翔は笑顔で依舞稀にスマホを手渡した。

緊張から一気に汗ばんでしまった手でスマホを受け取ると、恐る恐る耳に当てた。

「もしもし……」

まるで囁くかのように声を掛けると、『もしもし?依舞稀さんかい?』と低く優しい声が返って来た。

「はい。緒方依舞稀と申します。ご挨拶が遅くなりまして、たいへん申し訳ありません」

相手に見えないにも拘らず頭を下げるという、日本人特有のことをやってのける依舞稀を遥翔は肘で小突き、「緒方じゃねぇだろ」と小声で言った。

いつもならばそんな細かいことを気にするなと突っ込むところだが、今の依舞稀にはそんな余裕すらない。

「本日、婚姻届けを提出させていただきました。なんのご相談もなく、申し訳ありません」

深々と頭を下げた依舞稀に、誠之助は一言『ありがとう』と言った。
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