契約結婚!一発逆転マニュアル♡
「あの……」

「ん?」

「これってどういう状況なんでしょうか」

「初夜を迎えた新婚夫婦なのに、妻が早々に拒否するから必死で我慢している夫が、せめてと思い妻を抱きしめているという状況だ」

「妻が悪いように言わないでください。最初からそれは条件だったじゃないですか」

「だからこれだけで我慢してるじゃないか」

寝室のダブルベッドで、依舞稀を後ろから抱きしめる形で眠ろうとしている遥翔は、不満を微塵も隠すことなく腕に力を込めた。

本当であるならば、今すぐにでも依舞稀の全てを暴きたいところだが、強行突破して嫌われでもしたら元も子もない。

煩悩を隠し、欲を捨て、まるで出家僧のように強固な心を待って依舞稀を掻き抱いた。

「少し緩めてくれないと安眠できないです」

文句ばかり言う依舞稀だが、彼女とて内心は我慢しているのだ。

遥翔の外見は勿論、ここ数日で性格もわかってくると、なかなかの勢いで遥翔の好感度は上がっていった。

そうなればやはり依舞稀も女である。

夫婦になったわけだし、遥翔からの好意もちゃんと感じるし、条件撤廃を提案してもいいかな、という気にもなってきてしまう。

しかし、だ。

自分から言い出した手前、『はい。解禁しま~す』なんて簡単に言えないものである。

我慢してくれている遥翔の気持ちは有難いけれど、せめてもう少し。

キスくらいしてくれれば、流されてみるのもいいかと思うのだけれど。

依舞稀は自分から条件を出してしまったこと。

遥翔はその条件をのんでしまったこと。

互いに大きな大きな後悔を胸に、微妙な距離感で初夜を迎えることになってしまった……。
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