侯爵令嬢は殿下に忘れられたい!
クラリスは帰宅するとそのまま兄の部屋に行く。
「お兄様、聞いて!殿下は頭がおかしいわ!」
「っゴホッゴホッ。帰ってきて早々とんでもない不敬なことを言うな!」
クラリスの言葉に兄のハリスが飲んでいたコーヒーでむせる。
「だって殿下にまた会いたいって言われたのよ。お茶会で私やらかしてしまったのに…!このままじゃ婚約者候補になってしまうかもしれないわ」
「別になんてことないだろ。むしろクラリスは侯爵家の次女だ。王族に嫁いでも問題ない身分だしそのレベルの教養も身につけてる。婚約者候補になる可能性の方が高いだろう」
何言ってるんだおまえ、という表情で言ってくるハリス。
「そうじゃなくて、ふさわしくない振る舞いをしたのに…それに殿下に私の力が効かなかったの」
「お前殿下に力使ったのか?!」
家族はクラリスの能力について知っている。
「使ったけど効かなかったの。お兄様、殿下も能力持ちなの?」
「俺は殿下と直接関わりはないから知らない。それより能力使うのはやめろ!バレたらやばいぞ。家が潰れる」
「わかってるわ…もう使わない。使ったところで意味がないもの。でも、殿下と結婚なんてことになったらどうすればいいの。私は嫌よ!」
「王族との結婚に我が家が嫌だなんて言えるわけないだろう」
お兄様に言っても無駄だわ。
これだから頭が硬い人はダメなのよ…。
クラリスは心の中でハリスに悪態をつきながら、部屋を出ていく。
クラリスが自分の部屋に入るとすぐにメイが部屋にやってくる。
「お帰りなさいませ。お嬢様。どうでしたか?お茶会は」
「最悪なことになったわ」
「もしかして、お嬢さまの美しさに嫉妬したご令嬢が暴れたとか?」
「そっちの方がよかったかもしれないわね…」
「それより最悪な事ってことですか?…あれ、お嬢さま、その薔薇はどうなさったのですか?」
クラリスの手には一輪の薔薇。
「殿下に貰ったのよ」
クラリスは言ってからしまったと思った。
そんなこと聞いたらメイが、
「キャアーーー!!流石お嬢さま!!やはり殿下の心を射止めるくらい余裕でしたね!シェフに言って今日の夕食は豪華にしてもらいましょう!!王妃になっても私のことは専属侍女で居させて下さいね!」
やっぱり暴走してしまった。
とんでもないことを大声で言うものだから、次の日には侯爵家の使用人の間で噂になってしまうのだ。
「ただ物欲しそうに見ていたから優しい殿下が下さっただけだわ!だから騒がないで!」
「そんなわけないじゃないですか!物欲しそうに見てたら全員にあげます?お嬢さまだから渡したのですよ!!」
「…そうかしら。女たらしで他のご令嬢にも渡してたかもしれないわよ」
クラリスは自分でそう言いながら帰りの挨拶の際に薔薇を受け取ってるご令嬢がいなかったことを思い出す。
「何をおっしゃいます。殿下は浮いた噂一つございませんよ。それより、ルバート殿下といえば容姿の美しさや性格といい完璧な方として、有名なのですから!」
メイも真顔で言うのだから殿下が女たらしはないだろう。殿下に心の中で謝罪する。
「…そうよね。もう今日は疲れたから部屋で休むわ」
「かしこまりました。では後で紅茶をお持ちいたしますね〜」
「ありがとう」
一度寝て頭を整理したい。
1人になるとクラリスはベッドに倒れ込む。
自分にも忘却の力を使えたら、今日あったことを全て忘れることができたのに。
それか今日起こったことが全て夢でありますように。
そう思いながらクラリスは目を閉じた。