片思いのあなたに再会してしまいました
2人でオフィスの外に出て近くにあったベンチに腰掛けた。

春先の爽やかな風が心地よいが、私の心中は爽やかさとは正反対である。

「いやぁ、本当にびっくりしたよな。6年間も会ってなかったのにまさか一緒に仕事をすることになるとは。」

「本当ですね。私もすごく驚きました。」

「ずっと地方勤務だったんだよな?いつこっちに戻ってきたんだ?」

なんでそんなことを知っているのかと思ったが、彼は同窓会に参加していたのだろうからその時聞いたのだろう。
私が薄情者だ、なんていう周囲の声も聞かれたのかと思うと少し苦い気持ちになる。

「この4月付で本社勤務になりました。
ずっと広域担当をやりたいなって思ってたので夢が叶いまして……」

「そうか、良かったな。それにフタバフーズに入りたいって言ってたもんな。それもしっかり実現して、すごいな石田は。」

フタバフーズに入ったことはあなたにちゃんと伝えましたよ。
だけど返事くれなかったじゃないですか。
心の中で毒づいてしまう。

せっかくこれからはビジネスパートナーとして付き合えると気持ちを割り切ろうと思ったのに、こんな話をして過去の傷をほじくり返したくない。
そう思っているとタイミング良く電話が鳴った。
恭さんに目配せをすると出ていいよと言ってもらえたのでお言葉に甘えて通話を開始する。

「はい、石田です。片倉さんお疲れ様です……」

電話は片倉さんからだった。まるでこちら側が見えているんじゃないかというくらいのタイミングの良さに感動する。

「はい、はい、かしこまりました。変更しておきます。え?明日の夜ですか?空いてますが……
食事?そんな歓迎会も開いていただいたばかりですし………。」

仕事の用件を終えて少しプライベートな話になってきたので、さすがに恭さんの前でするには肩身が狭い。


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