片思いのあなたに再会してしまいました
日野さんはどこか姉御肌のようなところがある人だ。
私の指導担当として2週間前から手厚くサポートしてくれていて、わからないところも積極的に教えてくれる。
職場のみんなからも好かれていて、たった2週間しか関わりのない私ですら日野さんと働けなくなるのは悲しいなと思っているほどだ。

そんな日野さんに連れられてエブリデイ本社へとやってきた。
我々の会社フタバフーズが入居するビルにも負けず劣らず大きなビルだ。
不安を抱えつつ、日野さんの横に立ち受付を行う。
案内されたのは25階の小会議室。
椅子が六脚にホワイトボードというこじんまりした設備だが窓からはオフィス街の眺めが一望できる。
しかし緊張から窓の外の景色に目をやることなどできず、カバンから取り出した名刺入れをぎゅっと握る。

商談はいつでも緊張するものだけど、ここまでなのは入社後はじめて訪れた地方スーパーでの商談以来ではないだろうか。
あの時の店長はなかなか厄介な人だった。
はじめての商談相手がそういった人であったために鍛えられたという感もなくはないのだが。
あれ以上の人はいないだろうと自分で自分をなだめすかした。

すると廊下から足音が聞こえてきて、会議室のドアがノックされた。
コンコンコンという音の後にガチャリとドアが開き、スーツをしっかりと着こなした男性がひとり入ってきた。

「すみません、遅くなりました。」

その声に自分の耳を疑う。
すぐに顔を上げ相手を見た。
< 3 / 60 >

この作品をシェア

pagetop