片思いのあなたに再会してしまいました
「き、恭さん……」

小声だけど確実に口をついて出た言葉。
日野さんにも相手にも聞こえたようで、2人とも私を見ている。
そして目の前の男性も私のことを思い出したようでハッとした様子を見せた。

「石田じゃないか。その、久しぶりだな。」

困惑していたようだったけど、すぐに人懐こいなつかしい笑い顔を見せた。

変わっていないな。

私が5年で本社へとやってくることができた遠因でもある人。
この人への想いから目を背けたくて、逃げ出したくて、蓋をするために仕事に励んだ。
なぜここでまた会ってしまったのか。

日野さんは私と恭さんの両方の顔をキョロキョロと見た後、長年の営業としての経験か、はたまた女の勘かはわからないが、我々の間に何かがあることを悟ったようである。
そしてそれが私にとって苦いものであることも。
だからこそ彼女は多くを言及せず当たり障りのない2人は知り合いなの?という言葉を選んでくれた。

「大学の、サークルの、ひとつ上の学年の先輩なんです……」

わたしにとってはそれ以上の関係性だけど、わたしの一方的な想いなのだからそれ以上でもそれ以下でもないのだ。多くは語るまい。

「そうなんですよ。みんな仲の良いサークルで。
でも俺が卒業して以来会ってないからもう6年くらいたちますね。」

彼と会わなかったのは主に私が地方勤務だったからということが大きいが、それにしても私は彼と会うようなサークルの同窓会といったイベントを積極的に避けてきた。
サークルの中心メンバーだったにもかかわらず、滅多に顔を見せない私に対して事情を知らない友人以外はみんな文句を言っていた。
確かに私たちの絆は仕事が忙しいの一言で片付けられるようなものではなかったけれど、それでも彼と顔を合わせるのは怖いと思ってしまうのだった。
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